【司法試験、予備試験】 刑法論文1 -詐欺と横領の区別
こんにちは、やきなすです。
デヴィ夫人が業務上横領の被害に遭われたということで話題になっています。
夫人は詐欺だということを主張されていたようですが、
検察が証拠関係等から、業務上横領で起訴をしたようです。
今回の事件のように、実務では、証拠関係を踏まえて罪名を確定していくことになりますが、
詐欺と横領のように、線引きがなかなか微妙な犯罪は、いくつか存在します。
一言で簡単に言うと、
詐欺は、人をだまして財産の交付を受ける行為
横領は、自分の占有に属している他人の財産を費消してしまう行為
ということになります。
今回は、司法試験・予備試験の典型論点を例に、
論文試験で詐欺か横領かが微妙な事案が出たときの書き方をお伝えしたいと思います。
詐欺罪(ここでは刑法246条1項の詐欺罪を想定します。)と遺失物横領罪のいずれの成否を検討すべきかが問題となる典型論点として、
「誤振込の引き出し」
という論点があります。
つまり、自分の口座に誤って振り込まれた他人の金銭を、それが誤振込であると知りながら銀行窓口で引き出し手続をする行為です。
この場合、当該金銭の占有がまだ銀行にあると考える場合、銀行窓口の人をだまして当該金銭の占有を移転させる行為となることから、詐欺罪に問うべきことになります。
他方、自分の口座に入った以上は、もうすでに事実上当該金銭の占有は自己に移っていると考える場合には、(遺失物)横領罪に問うべきことになります。
私は、詐欺罪に問うべきという立場に立って、以下のように簡単に論証を展開していました。
(問題提起)
誤って振り込まれた〇円を引き出した行為につき、詐欺罪と業務上横領罪のいずれに問擬すべきか。預金の占有が誰に帰属するかと関連して問題となる。
(論証)
預金口座の名義人は預金口座に振り込まれた場合、銀行に対する債権を取得するに留まる。そこで、詐欺罪に問擬すべきと考える。
「問擬(もんぎ)」という言葉を使いましたが、どちらの成否を検討すべきか、といった意味の法律用語となります。覚えとくと使い勝手はよいと思いますが、一般用語ではないため、いずれの成否を検討すべきか、といった表現でも問題ないと思います。
上記のような事案が出てきた場合には、犯罪の成否を検討する前提として、
まず上記のように簡単に論証を展開して、詐欺罪を検討しますということを一言確定させておくとよいと思います。
ちなみに大切なことは、上記はあくまで、どちらの犯罪の成否を検討するかという論点で、その後詐欺罪の要件を一つ一つ検討していく必要があるという点は忘れてはなりません。
したがって、「人を欺いて」「財物を交付させた」といえるかどうかは、上記の論証に続けてきちんとあてはめをする必要があります。
なお、論証とは何ぞや?といったことがわからない方は、過去の記事もご参照ください。
今回は詐欺と横領の区別という形で説明しましたが、
刑法では、このようにいずれの犯罪の成否を検討すべきかをまず確定する作業というのが大切になってきます。
司法試験合格後の司法修習の卒業試験(通称二回試験)における検察起案でも、
犯罪の確定をミスると致命的とも言われており、
この作業は非常に重要となってきます。
今後も、いくつかの犯罪の類型で書き方をご紹介していきたいと思います。
刑事弁護は、ある意味弁護士の醍醐味といえますので、刑事系を得意にしておくことは、実務に出てからも有益だと思います。(検察官や裁判官を目指す方ももちろんです)。